登山者のトイレ問題解消に貢献。バイオトイレを日本百名山【祖母山】へ設置しました。
登山者なら誰もが遭遇する「トイレ」にまつわる不安。
山小屋や登山道にしっかりとトイレが整備されている山であれば問題ないのですが、登る山によっては、トイレが設置されていない山も日本国内にはまだまだ存在します。
そうした山への登山中、トイレに行きたくなったら・・・どうしますか?
モラルやマナーを守っている登山者なら、携帯トイレなどを持参するとは思いますが、残念なことに中には山中で(さまざまな環境下がありやむを得ずということはあると思いますが)、用を足してそのまま放置…という方々がいることも事実。
こうした山の「トイレ問題」は日本国内だけでなく、世界の山々で同じように問題となっていて、多くの関係者の方々が解決策に頭を悩ませています。
「山にトイレを設置する」と言葉にしてしまえば、なんとも簡単な作業を想像してしまいそうですが、これがなかなか一長一短で行えるものではないのです。
2017年5月より、そうした山の「トイレ問題」を解決すべく、弊社のバイオトイレ【バイオミカレット®】と燃焼式トイレ【ミカレット】を、地元・大分県の【祖母山】へ設置するというプロジェクトに参加させて頂きました。
そこで今回は、全行程約6ヶ月におよぶ【祖母山】へのトイレ設置までの流れをご紹介させていただこうと思います。
目次
登山者が訪れる山の深刻な「トイレ問題」とは
㈱ミカサは、これまで富士山山頂や富士山7合目の山小屋などの、登山者が多く訪れる場所にバイオトイレ【バイオミカレット®】や燃焼式トイレ【ミカレット】を設置してきました。
そうした経験のなかで、山を管理している国や地方自治体、また多くの山小屋の管理者からトイレに関して
- トイレ環境が整っていないゆえに、人の排泄物が自然環境の中で放置され、自然を汚してしまっている
- トイレはあっても、ほとんどが汲み取り式の仮設トイレのため、悪臭がひどく汲み取りも非常に大変
- 登山者が多い山の場合、利用者が多すぎてトイレの処理能力の限界を越えてしまい、トイレを美しく・快適に利用できなくなる
など、現状のトイレの【衛生環境】【自然環境保全】【臭い】【処理能力】にまつわる、さまざまな問題の声を耳にしていたのです。
【祖母山】へバイオトイレを設置するきっかけ
今回、私たちの地元・大分県にある日本百名山の1つ【祖母山】9合目の山小屋に、トイレを設置してほしいとの依頼を豊後大野市より頂きました。
実はこれまで、県内外の登山口へのトイレ設置の経験はありましたが、地元・大分県の山の中へのトイレ設置は初めて。
登山レベルでは中級~上級の【祖母山】。「これはそこそこ大変な作業になる」とは思いましたが、地元・大分の山でもあり、しかも「日本百名山」にも選ばれた山ということもあり、快く挑戦させていただくことにしました。
【祖母山】は大分県・宮崎県・熊本県の県境に位置する標高1756mの山。祖母傾国立公園内にあり、2017年6月には「祖母・傾・大崩ユネスコパーク」に登録されています。
主な登山ルートは「神原ルート」「尾平ルート」「北谷ルート」の3箇所があり、年間の登山者数は、大分県竹田市の「神原ルート」だけで約1300人と多く、県内外から登山愛好家が訪れる山として知られています。
今回私たちは、現地調査や設置で何度も山を登らなければならなかったため、比較的歩きやすい登山道といわれる「北谷ルート」を登りました。
トイレを設置した祖母山9合目には1990年より山小屋があり(現在は山小屋としてではなく、避難小屋となっています。)、既にその当時から他社製のバイオトイレが設置されていました。
しかし、そのバイオトイレは定期的なメンテナンスや管理が全く行われておらず、処理装置も故障し、もはやバイオトイレとしての機能を果たせておらず、単なる汲み取り式トイレのような状態…。
さらに驚いたのは山小屋の管理人さんによると、その無防備な状態のトイレに野生の鹿がやってきて、トイレ内の便を食べていたそうなんです!(ちょっと信じられない話ですが、本当に鹿が便を食べるとのこと)
メンテナンスさえも「鹿まかせ」のようなバイオトイレは、機能的にも衛生的にもかなり問題がありました。
そこで㈱ミカサでは、こうしたさまざまな現地の状況をふまえ
- バイオトイレ【バイオミカレット®】(処理層)1台
- 太陽光発電システム 一式
- 燃焼式トイレ【ミカレット】(処理層)1台※ミカサより寄贈
を提案させて頂きました。
【バイオトイレ】に加え【燃焼式トイレ】も取り入れ提案を行った理由
先ほどお話したように、【祖母山】9合目の山小屋には、すでに2基のバイオトイレが設置されてはいたものの、どちらも故障してしまっていました。
原因としては、バイオトイレの処理能力を超える利用者があったことや、定期的なメンテナンスを行っていなかったことが考えられました。
こうした過去の経緯を踏まえ、年間の登山客から逆算したトイレ利用者の数、トイレの処理能力、管理体制などを考えた末、今回のケースではバイオトイレ【バイオミカレット®】のみでは【祖母山】のトイレ問題を解決するのは難しいとの考えに至りました。
そのため、バイオトイレ【バイオミカレット®】よりもさらに処理能力の面で優れている燃焼式トイレ【ミカレット】の導入も、「弊社からの寄贈」というカタチで提案することとしました。
バイオトイレ設置前の現地調査含め、合計4回【祖母山】を訪れる
【祖母山】9合目へは、まず事前調査に2回、さらに使用不能となっていたバイオトイレの処理槽の撤去及び、新たに導入するバイオトイレ【バイオミカレット®】と燃焼式トイレ【ミカレット】の処理槽の設置前準備と設置に2回、合計4回訪れました。
「登山者のなかでも初心者はなるべく経験者と行くべき!」と言われるくらい、比較的難易度の高い山と言われている祖母山へ4回も訪れたのですから「体力的にも精神的にもかなりなパワーを要した」というのが本音です。
2017年5月 最初の現地調査へ
豊後大野市の依頼を受け、初めて【祖母山】9合目へ。
登山口から9合目まで歩くこと約3時間。とにかく現場までたどり着くのも一苦労でした。もちろんミカサに「登山が趣味!」というようなスタッフいませんので・・・、登山の厳しさ、現地までたどり着くことの大変さを痛感しました。
2017年11月 2回目の現地調査はとにかく入念、慎重に!
いよいよ弊社のトイレを設置するという話が確定し、2度目の祖母山へ。
1回目の現地調査では、決して容易に行ける現場ではないと思い知っただけに、2回目の現地調査や情報収集は、出発前の「天候は大丈夫か?」「忘れ物はないか?」といったことから、現場(9合目)に着いてからも
「管理人さん、担当者さんへのヒアリングで聞き漏らしはないか?」
「処理槽のピットの状況は?」
「山小屋の寸法は?」
「太陽光パネルの設置場所は?」
など、いつにも増して、慎重かつ入念に調査・確認を行いました。
【祖母山】をよく知る現場の声は大きな参考材料になりました
市役所の方から事前資料として、年間の【祖母山】への登山者数などは聞いてはいましたが、よりリアルな情報が知りたいと思い、山小屋の管理人さんには、とくに詳しくお話を伺いました。
年間登山者数だけでなく、山の状況、トイレの現状なども事細やかにヒアリングすることができたことも、「どのトイレ製品が最適なのか?」という重要な検討材料となったのです。
2018年4月4日〜5日 バイトトイレの撤去と、設置へ向けての事前準備
3回目の現地入りでは、現状機能していないバイオトイレの処理槽の撤去と、新しい処理槽設置の両方を、設置当日にスムーズに行うための前準備を行いました。
なぜ撤去と設置の前準備が必要だったかというと、バイオトイレの処理槽の重さは500kgあり、人力ではとても移動させることはできません。
そこで今回のケースでは、上空からヘリコプターを使っての運搬が必要であったため、より迅速に確実な作業を行うにはこの前準備という工程がどうしても必要だったのです。
ちなみに、この日はじめてスタッフとともに現場に1泊。自分たちで火おこしからの自炊を行ったりと、普段ではなかなか味わえない経験をすることができ、スタッフとの絆も深まった様に感じます。
2018年4月25日〜28日 いよいよヘリコプターを使った設置!
そしていよいよ最大のミッションであるバイオトイレ設置作業本番の日。現地(9合目)までの移動を含め、設置作業全体でトータル4日間かかりました。
ヘリコプターを使用し、現状あるバイオトイレの処理槽の撤去と、新しく導入するバイオトイレ【バイオミカレット®】と燃焼式トイレ【ミカレット】の処理槽を運搬。その日の内に設置まで行いました。
事前調査や事前準備を行った甲斐もあり、問題なくスムーズな作業が行えました。
【祖母山】へのトイレ設置は、㈱ミカサにとっても貴重な経験に
今回の【祖母山】へのトイレ設置は、山ならではの気まぐれな天候にスケジュールが左右されることも多く、現地(9合目)までの道のりも予想以上に険しいものだったりと、大変な面も多々ありましたが、何より【祖母山】を訪れる登山者の方々が、快適にトイレを利用していただけるようになったことにとても大きな喜びを感じています。
また、日本全国から登山者が訪れる地元・大分の【祖母山】に、ミカサのトイレ製品を設置できたことは、会社の取組みとしても大きな意味を持ち、貴重な経験となりました。
その他今回のプロジェクトでは、いつも以上に厳しい環境下だったため、スタッフと協力しなければならないことも多く、こうした体験を通して、スタッフ間の絆がより深まったことに、予想外の充実感が得られました。
これからも自然環境を守るため、登山者のために最適なトイレ環境を提案していきます
日本各地の山小屋などに設置されているトイレは、まだまだ汲み取り式のトイレが多いのが現状です。
今後も㈱ミカサは、水も汲み取りもいらないバイオトイレ【バイオミカレット®】や、汚物を燃焼でき処理能力に優れた【ミカレット】など、日本の山々のさまざまな環境に合わせた自己処理型トイレを提案することで、山の自然を守り、登山者にとって少しでもストレスなく利用できるトイレ環境を実現していきたいと考えています。